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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)3103号 判決 1954年12月14日

大阪市東淀川区国次町三五一

原告

立入庄作

右訴訟代理人弁護士

立入庄司

中務平吉

同市同区淡路町一三八

被告

出海政一

同所

被告

木原文子

同所

被告

木原路広

右三名訴訟代理人弁護士

徳矢馨

同市同区南大道町二丁目一一二

被告

大野茂

同市同区塚本町四丁目一六

被告

吉岡吾郞

右当事者間の昭和二七年(ワ)第三一〇三号賃料請求事件について当裁判所は昭和二九年一一月二五日終結した口頭弁論に基づいて次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一、原告訴訟代理人は被告等は原告に対し連帯して金二十三万円及び昭和二九年三月二一日より同三〇年四月末日まで一ケ月金一万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求めた。

二、被告出海外二名訴訟代理人は主文同旨の判決を、被告大野同吉岡は主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  原告主張の請求原因

一、原告は昭和二七年四月二〇日被告等五名に対して原告の兄立入半司所有の大阪市東淀川区国次町三五一ノ七、三六七ノ三の両地上にある市場建物(以下本件建物と略称す)のうち十個の店舗(一二号一四号乃至二二号)(以下本件店舗と略称す)及び定着物共有姿のままこれを管理人として自己の名において賃貸し、期間三年、賃料は被告等は原告に対し、連帯して同日より現実に返還の日まで一ケ月につき金一万円の割合で毎月末日原告方へ持参支払うことと定めた。

二、然るに被告等は昭和二七年四月二〇日以降同二九年三月二〇日迄の賃料合計金二三万円を支払わない。

三、右の如く被告等は原告より度々の請求にも拘らず賃貸当初より少しも支払わないので二九年三月二一日以後賃貸借終了の日である昭和三〇年四月二〇日迄の分も支払わないことは必定であるから予めその請求を為す必要がある。

第三  被告出海外二名訴訟代理人の答弁及び抗弁

一、原告主張事実は全部これを否認する。

二、本件建物は訴外石井貞次の所有であつて、右は市場建物であり、一二号から二二号に区別され、次のとおり賃借人等において同訴外人より昭和二五年一〇月以降賃借し市場店舗を経営し来つたものである。

番号 賃借人 保証金 賃料(日額)

一二号室 吉岡 二万円   五〇円

一四〃  大野 三万円   四五円

一五〃  吉田 二万円   四〇円

一六〃  吉田 二万円   四〇円

一七〃  石田 六万円   五〇円

一八〃  林  六万七千円 〃

一九〃  福本 四万円   四五円

二〇〃  奥田 二万円   〃

二一〃  西村 四万円   〃

二二〃  浦浜 七万円   五〇円

三、ところが市場経営不振のためパチンコ営業をする計画を各賃借人が発意し、右各賃借人が共同して経営し、その代表者として被告木原文子を選び、昭和二七年四月右賃借人等はいづれも賃借権を建物所有者たる前記石井の承諾の下に譲渡又は出資し、名義人木原文子一本としてこれが営業許可を受け引続き訴外石井より賃借し経営し来つたものである。

四、原告提出の甲第一号証(賃貸借契約証書)は前記パチンコ営業許可に際し所轄警察署より土地所有者の承諾を求められたるにつき原告方に同意を求めたところ、右証書に捺印を強要されたのでやむなく被告等はこれに捺印したに過ぎない。従つて被告等は真実賃借する意思がなかつたのであるから無効である。

五、仮りに原告主張の賃貸借が成立したものとしても、原告は本件建物につき所有権も管理権もなく、従つて被告等に対し本件店舗の使用をなさしめ得る立場になかつたのであるから使用を目的とする賃貸借契約は無効である。

六、仮りに百歩を譲つて契約が有効であつたとしても、本件店舗は営業不振のため昭和二七年九月所有者たる石井に返還し、本来被告等は占有をもしていないから賃料支払義務がない。

第四  被告大野及び同吉岡の答弁

原告主張事実をすべて否認する。本件建物は淡路マートとして建設されたもので、被告等は訴外石井貞次とそれぞれ賃借契約を結び営業して来たところ、遂に営業不振になり賃貸人石井貞次及び市場商人協議の結果パチンコ店に転向することにしたところ、営業許可申請の件につき所轄警察署では家主の同意書のみではいけない、土地所有者の同意書もなければ許可できないということであつたから土地所有者たる立入氏宅に行き同意を求めたところ甲第一号証に捺印を求められたので止むなくこれに捺印したに過ぎない。

第五  被告等の答弁及び抗弁に対する原告の主張

一、本件賃貸借契約の成立した経緯は次のとおりである。即ち昭和二五年三月九日に訴外立入半司(以下甲と称す)と訴外石井貞次(以下乙と称す)との間に次の如き委任契約が成立した。

(1)  乙は甲所有の土地の上に甲の所有建物として別紙図面の如き建物を建築すること。

(2)  建築許可申請、建築資材の購入、その他建築を完成させる為の種々な契約等は乙の名義で乙の責任で行うこと。又賃借人(市場商人)に対する賃貸の交渉や条件を定めることも乙がする。

但し一切の工事費用の見積額を定めること代金の支払、個々の賃借人(市場商人)の選任、賃貸の条件等については予め甲の承諾を求めること。

(3)  建築工事に関する一切の費用百八十万円は建物賃借人(市場商人)から受ける権利金の見込額金四百五十万円のうちから支払うこと。

(4)  乙に対する報酬は金三十万円と定め右利益金二百七十万円のうちから支払い残りは甲の所得とすること。

(5)  甲は乙に対し右委託事務処理費用の内金十五万円を限度として乙の要求に従つて適時支出すること。

(6)  右工事が完成し賃借人に対する賃貸借契約完了したときは右建物を附属の水道、瓦斯、電燈等の諸設備並に建物賃料請求権と共に引渡すこと。

二、而して右契約成立後第五項に従い甲は乙に対して四回に金十五万円を交付した。そして昭和二六年九月一五日に本件建物は完成したので訴外立入半司は原始的に本件建物の所有権を取得したものである。そこで訴外立入半司は訴外石井貞次に対して本件建物の引渡を求めて来たが、同訴外人は遷延するばかりでなく、建物建築名義が自己名義になつているのを奇貨として本件建物を自己の所有として区役所や法務局へ建物新築届をしていることが判明したので立入半司は石井貞次に対して本件建物等の所有権確認並に引渡の訴を提起し目下御庁第五民事部に係属中である。

三、被告等の抗弁事実を否認する。尚仮に被告等が昭和二七年九月本件店舖を訴外石井に返還したとしても、被告等は原告に返還しないから現実に原告に返還の日迄は賃料若くは賃料相当額の損害金を支払う義務あることは当然である。

第六  証拠(省略)

理由

一、本件賃貸借契約の成立の経緯について。

署名捺印の成立につき争なくその余の部分につき証人立入庄司の証言により成立の認められる甲第一号証、証人石井貞次の証言により成立の認められる甲第三号証及び第四号証の一乃至四、成立につきいづれも争のない甲第五号証第七乃至第九号証第一〇号証の一乃至五第一二号証、官署作成部分の作成につき争なくその余の部分については証人石井貞次の証言により成立の認められる乙第一、二号証の各一、二並に被告大野茂の供述により成立の認めらる乙第三号証に証人立入庄司、立入とよの、石井貞次(一部)の各証言、被告大野茂の供述を綜合するときは次の諸事実が認定せられる。(証人石井貞次の証言中当裁判所の認定に反する部分は信用できない)。

(イ)  訴外立入庄司は本件建物の敷地の所有者たる立入半司の代理人として昭和二五年三月一日頃訴外石井貞次との間に本件建物の建築請負及び建築竣工後のマーケット開設に関し市場商人の募集委託に関する契約(甲第三号証)が締結せられた。

右甲第三号証は委任契約なる文句を使用しているがその主要な内容は本件建物の建築請負にあることは明かである(第一条参照)。

(ロ)  本件建物を含むマーケットは昭和二五年九月に一部落成し翌年九月には全部落成開店した。

(ハ)  訴外石井貞次は本件建物の建築に着手するや市場商人を募集していたが被告大野茂は昭和二六年八月一日頃右石井貞次より本件店舖の一室を賃借し、被告吉岡もその頃賃借して営業して来たが、いづれも営業不振であつたため昭和二七年三月頃本件店舖の営業者が協議の結果パチンコ営業に転向することにし、被告木原文子を営業名義人として営業許可を受けることにした。その際訴外石井貞次は本件建物の所有者ということで同意書を交付したが、所轄警察署では地主の同意も必要というので、被告大野同吉岡が従来の本件店舖の賃借人の代表者として、被告木原文子等と原告側の同意を求めに行つたところ、原告の代理人立入庄司より本件建物は訴外立入半司の所有であるからこれを認めて賃貸借契約を締結するならば同意するという回答があつたので、被告等は既に本件店舖を訴外石井貞次から賃借していたので、本件建物の所有干係については疑念を抱いたのであるが、一刻も早く書類を整備し許可を得てパチンコ営業を開業したかつたので一応原告主張の賃貸借契約証書(甲第一号証)を作成したことが認められる。然しこれを以て被告等に賃貸借契約を締結する意思がなかつたものとは認められないから原被告間に原告主張の賃貸借契約が成立したものと認めるを相当とする。

二、本件賃貸借契約は無効か。

前段認定の如く本件建物は訴外石井貞次が訴外立入半司との請負契約により建築したものであるところ右請負契約(甲第三号証)の第四条によれば請負人たる訴外石井貞次は本件建物の工事完成後その所有権を注文者たる訴外立入半司に譲渡すべきことを規定して居るから訴外立入半司は本件建物の完成によつて原始的にその所有権を取得するに由なきものというべきである。従つて右認定に反する証人立入とよの、立入庄司の各証言は採用できない。果して然らば注文者たる立入半司において本件建物の所有権を取得するには右請負契約の条項に従い請負人たる石井貞次より本件建物の所有権の譲渡を受ける必要あるものというべきである。然るに立入半司が石井貞次より本件建物所有権の譲渡及び引渡を受けていないことは弁論の全趣旨により要旨にこれを認めることができる。従つて立入半司は本件建物の建築注文者としての請負人たる石井貞次に対し本件建物所有権の譲渡及び引渡を求める権利はあるが、現にその所有権も占有権もこれを有しない訳である。従つて又立入半司の管理権者としての原告も本件店舖の占有を被告等に移転し得る立場にないことは極めて明瞭というべきである。

而して賃貸借契約の成立のためには賃貸人において目的物件につき所有権は固より占有権をも有することは必要でないと考えるが、然し占有権を有しない物につき賃貸借契約を締結したときは賃貸人は民法第五五九条により準用せられる同法第五六一条に従い賃借物の占有を取得して賃借人に引渡す義務があり、賃貸人において賃借人にこれを引渡し得ないときは賃借人は同法第五六一条に従い契約の解除を為し得るし、解除をなさない場合においても、同時履行の抗弁権により占有の引渡あるまで賃料の支払を拒絶し得る理である。而して本件賃貸借契約成立当時被告大野及び同吉岡は他の賃借人と共に本件店舖を訴外石井貞次より賃借して営業していたとはいえ、本件建物建築の注文者たる訴外立入半司従つてその管理権者たる原告より未だ本件店舖の引渡を受けていないことは右認定の如くであるから被告等においてその約定の賃料の支払を拒否することは正当というべきである。

よつて原告の本訴請求はその他の争点につき判断するまでもなく失当して棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第十二民事部

裁判官 庄田秀麿

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